福岡高等裁判所 平成8年(行コ)10号 判決 2000年3月10日
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用のうち、参加によって生じた部分は補助参加人らの負担とし、その余は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人国は、控訴人らに対し、原判決別紙登記目録第一記載の差押登記の各抹消登記手続をせよ。
3 被控訴人熊本県は、控訴人らに対し、原判決別紙登記目録第二記載の差押及び参加差押登記の各抹消登記手続をせよ。
4 被控訴人熊本市は、控訴人らに対し、原判決別紙登記目録第三記載の差押及び参加差押登記の各抹消登記手続をせよ。
5 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二事案の概要
本件事案の概要は、原判決二三頁初行の「差押えの登記」を「本件差押登記」と改め、同二五頁二行目の「に対する」の次に「本件」を加えるほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
一 前提となる事実
当裁判所の判断の前提となる事実は、原判決三〇頁三行目の末尾に続けて「最初の法人税更正及び過少申告加算税賦課決定は、昭和五一年三月一一日になされた(本税二四六三万三九〇〇円、過少申告加算税一二三万一六〇〇円)。」を、同三二頁四行目の「において、」の次に「「会はいわゆる人格なき社団であるため、不動産はA個人の名義で登記されております。しかしながら、会長個人の名義で登記しておくことは、私としては全く不本意なことで、何とか私個人名義以外で登記できないものかと苦慮しております。また、私個人名義以外で登記しておくことができれば、不測の事態が発生しても財産の保全ができるのではないかとも思っております。」、「宗教法人大観宮も財団法人天下一家の会も、いわばこの会とは異名同体の関係なのであります。したがって、法律上認知されていない人格なき社団である会の基本財産を、法律上認知されている宗教法人大観宮に移管し、神の加護をもって守ってもらいたいと考えたのであります。」などと発言して、」を加えるほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」の「一 前提となる事実」のとおりであるから、これを引用する。
二 本件は、控訴人らが、本件物件等は、大観宮の所有ではなく、Aの所有であるから、本件差押処分は、所有者を誤ったものであるとして、本件物件等の所有権に基づき、差押登記の抹消登記手続を求めるものであり、本件差押処分に先立つ第一相研に対する課税処分、大観宮に対する第二次納税義務告知処分、大観宮に対する本件差押処分等の瑕疵を争うものではない(控訴人らが原審準備書面(二)、(三)で明言するところである。)。そして、前記引用にかかる原判決の「事実及び理由」の「一 前提となる事実」の「3」のとおり、形式的には、第一相研から大観宮に対して本件物件等が寄附されているのであるから、控訴人らの請求は、争点1に記載の本件寄附行為以前の本件物件等の所有者がAであることに加え、本件寄附行為が通謀虚偽表示により無効であることをも前提とするものである。そうすると、仮に、本件物件等が本件寄附行為以前にAの所有であり、大観宮への本件寄附行為がAと大観宮間の通謀虚偽表示であるとしても、被控訴人らが善意の第三者であると認められれば、本件寄附行為以前の所有者がAであったとしても、控訴人らは被控訴人らに対し、本件物件等の所有権を主張することはできないことになる。そこで、以下、争点3について検討する。
三 争点3について
争点3に関する事実認定、判断は、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」の「二2」、「三」ないし「五」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三八頁三行目の「なお、」を削除し、同三九頁九行目の次に改行して、次のとおり加える。
「控訴人らは、滞納処分の前提となった課税処分を行った行政庁及びその中の指揮命令権者から担当職員に至る者の善意、悪意を問題とすべきである旨主張しているのであるが(被控訴人国に関し、賦課徴収の最高責任者である国税庁長官から、国税庁、国税局、税務署幹部職員及び賦課徴収業務を現実に担当する職員の全体についてその認識が問題とされるべきであり、さらに、国税庁以外の公務員であっても、大蔵大臣、総理大臣のほか、国務大臣、各省庁の政務・事務次官等、国税庁の行政処分に影響を及ぼすべき者が悪意であれば、全体としての悪意が認定されるべきである旨主張している。)、税法上、課税権限と徴収権限は、明確に区別されているうえ、被控訴人らは本件差押処分によって本件物件等につき利害関係を有するに至ったものであって、本件差押処分をするか否かの判断権を有するのは、徴収職員、徴税吏員であるから、被控訴人らの善意、悪意の判断に際しては、本件差押処分をした徴収職員、徴税吏員の認識を問題とすべきであり、課税処分を行った行政庁等の善意、悪意を問題とすべき根拠はないものと解されるから、採用の限りではない。
なお、控訴人らは、右主張を前提として、国税庁直税部審理課長Dが国会審議の際、ネズミ講の組織及び運営実態について詳細な資料を収集していること、正確な情報を把握していることを明言したことから、同人が通謀虚偽表示につき悪意であったとも主張するが、同人は、ネズミ講の収入及びその使途先について調査し、捕捉している旨発言しているに過ぎず(甲第二六号証の一)、このことから、同人が通謀虚偽表示であることを認識していたとはいえないから、採用し難い。また、控訴人らは、大蔵大臣、国税庁長官以下国税庁職員が本件差押処分前に開催されたネズミ講に関する衆参両議院の委員会等に出席し、政府委員として答弁している内容から、国税庁長官等の幹部職員が悪意であったことが明らかである旨主張しているが、甲第五六号証の一、二を検討しても、国税庁長官等の幹部職員が本件寄附行為が通謀虚偽表示であると認識していたと窺わせるものはなく、政府委員としての答弁の内容は、ネズミ講関係に対する課税、税の徴収が緊急の課題である旨の国会議員の指摘等に対して、本件寄附行為がなされたことを前提として、税金逃れを防止し、適正な課税を行うための調査をしているなどというに止まるものであり、右答弁の内容から、国税庁長官等の幹部職員が通謀虚偽表示につき悪意であったと認めることはできない。」
2 同三九頁一〇行目の「など課税当局側」を削除する。
3 同四八頁一〇行目から同頁一一行目にかけての「被告とする所得税法違反事件」を「被告人とする所得税法違反被告事件」と改める。
4 同五二頁二行目の「なお、」の次に「このことは、前記一3認定のAの発言ないし説明の内容に照らし明らかであるし、」を加える。
5 同五二頁四行目の「また、」を「あるいは、控訴人らも主張するように、少なくとも、第三者が真実本件物件等の所有権の移転があったと信頼するに足りる外観(控訴人らの主張を前提とすれば、Aから大観宮へ本件物件等の所有権が移転した外観であり、被控訴人らの認識を前提とすれば、人格なき社団である第一相研から大観宮へ本件物件等の所有権が移転した外観ということになる。)を備える必要があったと考えられること、現に」と改める。
6 同五二頁七行目の「られていたこと」の次に「(第一相研の臨時会員総会において、第一相研から大観宮へ本件物件等を寄附する旨の議決がなされた旨記載された臨時会員総会議事録が作成され、右議決の存在を示す外形が備えられていた。)」を加える。
7 同五二頁末行の「とられていたこと」の次に「(この点につき、控訴人らは、本件寄附行為前後の本件物件等の客観的利用形態、利用状況には変化がなかった旨主張するが、右事実に照らし、直ちに採用し難いし、第一相研から大観宮への本件物件等の所有権移転後に、Aないし第一相研が本件物件等を利用することは、必ずしも本件寄附行為が通謀虚偽表示であることを前提とするものとはいえないのであり、仮に、国税徴収担当者が本件物件等の利用形態、利用状況を知っていたとしても、このことが直ちに通謀虚偽表示に関する国税徴収担当者の悪意を認定すべき根拠とはならないものと解される。)、なお、本件寄附行為により大観宮に移転された動産類にも「大観宮」と印刷されたシールが貼られていたこと(原審証人Bの証言)」を加える。
8 同五三頁四行目の「説明していたこと」の次に「(この点につき、控訴人らは、国税徴収担当者が第一相研側の説明を信用したはずはない旨主張するが、前記三2ないし4に認定の事実によれば、国税徴収担当者は、本件寄附行為により本件物件等の名義が大観宮に移転したことを確認した後、これを裏付ける臨時会員総会議事録の提出を求めるとともに、Aらから事情を聴取するなどして、大観宮名義となった本件物件等について滞納処分が可能か否かの調査を進めていたのであって、第一相研側から提出された資料、事情聴取の結果以外に、滞納処分の可否を決する確たる資料は見当たらないのであり、国税徴収担当者が第一相研側の説明を信じたとしても、必ずしも不合理とはいえないから、控訴人らの主張は、採用し難い。)」を加える。
9 同五三頁七行目の「所有権が」の次に「第一相研(あるいはその代表者であるA個人)から」を加え、同八行目の末尾に続けて「前記認定のとおり、国会においてもネズミ講関係に対する課税、税の徴収が緊急の課題として取り上げられていたのであり、前記三2ないし4に認定の事実によれば、国税徴収担当者も、本件寄附行為がなされたことを前提に、もっぱら、いかにして、適正、確実に滞納国税を徴収するかにつき腐心していたことが明らかであって、仮に、本件寄附行為が通謀虚偽表示であるとしても、これを認識することを国税徴収担当者に期待するのは困難な状況にあったということもできるのでありそうすると、控訴人らの主張する種々の事情があったとしても、これにより、国税徴収担当者が本件寄附行為が通謀虚偽表示であることを知り得べきであり、この点につき国税徴収担当者に過失があると評価する余地があるか否かはともかく、国税徴収担当者において、真実、本件物件等の所有権が大観宮に移転されたと認識したとしても無理からぬところがあったとの右判断を左右することはできない。以上は、国税徴収担当者に関するものであるが、熊本県熊本事務所長、熊本市長等の徴税吏員においても、国税徴収担当者の判断を覆すべき独自の資料を有していたものと認めるべき証拠のない本件においては、同様に、真実、本件物件等の所有権が大観宮に移転されたと認識したとしても無理からぬところがあったというべきである。
なお、後記引用にかかる原判決の「事実及び理由」の「第三争点に対する判断」の「六」の「1」とおり、控訴人らは、Aから大観宮になされた本件寄附行為は、Aに対する債権者の強制執行を不正に免れるためになされたものであるとして、大観宮を被告として否認訴訟を提起し、右訴訟は、昭和六三年一〇月一八日の上告棄却の判決により、控訴人ら勝訴の判決が確定したのであるが、控訴人らは、右訴訟においては、本件寄附行為が通謀虚偽表示であるとの主張はしなかったのであり(甲第一ないし第三号証)、このことは、破産管財人としての訴訟技術上の問題であるということも可能であるが、他方、被控訴人ら主張のように、控訴人らが本件寄附行為が通謀虚偽表示として無効であるとの認識を有していなかったことを示すものと見ることも必ずしも不可能というわけではない。」を加える。
10 同五三頁一〇行目の「右間」を「それまで」と改める。
11 同五四頁二行目の「違反事件」を「違反被告事件の判決」と改める。
12 同五五頁二行目の「べきである」の次に「(控訴人らの指摘する第一相研名義の不動産がA個人の財産であると判示した東京高等裁判所昭和六三年一〇月三一日の判決(甲第五八号証の一)が本件差押処分後のものであることは明らかである。また、控訴人ら提出の甲第五九号証の一ないし二七(但し、本件差押処分後のものも含まれている。)によっても、国税徴収担当者が本件寄附行為をもって虚偽表示と容易に判断し得る状況にあつたもの断定することはできない。)」を加える。
13 同五五頁四行目の「徴収担当者」の次に「(熊本国税局徴収職員等のほか、熊本県熊本事務所長、熊本市長等の徴税吏員を含む。)」を加える。
14 同五八頁二行目の次に改行して次のとおり加える。
「なお、控訴人らは、熊本国税局徴収部管理課長Cが、「いろいろなアンテナを張っているので、財産隠しなどすぐわかる。」と発言したことから、同人が通謀虚偽表示につき悪意であったかのように主張するが、同人は、「いろんなアンテナを張ってますから、財産を移管したのはすぐ知りました。私たちとしては、この移管によって本来の納税者(第一相研)に財産がない、という立証をしなければならないわけで、じっくり調査しました。国税徴収法三九条に該当するかどうかです。」と発言しているに過ぎないのであり(甲第二五号証の六六)、財産の移管があったことを認識したこと、これを前提として、大観宮に第二次納税義務を課すことが可能かどうかを調査したというものに止まり、右発言から、直ちに、同人が財産の移管が通謀虚偽表示であることを認識していたものと認めることはできないから、採用し難い。」
四 争点4について
争点4に関する事実認定、判断は、原判決五八頁七行目の「相手方」を「被告」と改めるほか、原判決の「事実及び理由」の「第三争点に対する判断」の「六」のとおりであるから、これを引用する。
第四結論
よって、その余の判断をなすまでもなく、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項、六六条、六五条、六一条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 野尻純夫)
裁判官 小山邦和は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 川畑耕平